キル・ボクスンの演出・伏線を考察・評論

1、嘘つきな悪役たちと「閉めないで息苦しい」の意味

 ラストのセリフ「閉めないで息苦しい」の意味とは何か? ドアが心理的な壁を表していて、それを娘が取っ払ったことを示しているのだろう。母親であるボクスンは「娘が壁を作っている」と愚痴をこぼし、そして終盤で「壁を作っているのはあなたも同じだ」と指摘される。親子の隠し事が壁として表現されているのだ。そんな殺し屋であるという秘密を、チャ代表は暴露する。監督は、母親が殺し屋であることも受け入れる娘をそのセリフで表現したのではないだろうか。

 この物語では悪役が嘘つきで見栄っ張りだと表現されている。最初のヤクザを「ヤクザはどいつも見栄っ張り」と評し、娘を隠し撮りした男は「皆にどうみられるかが大事だ」と言い、チェ代表は訓練生のキムに「嘘をつき続けろ」といった。娘は「本当の姿を知ったら毛嫌いする」と秘密を隠し、主人公も殺し屋を隠していることは悪役たちと同様だ。そこから態度を改め正直になることで手に入れた幸せを表現しているのではないだろうか。

 娘は「正直に言って今の学校に通おうかな」と発言していたが、転校した。最後のセリフ「キスするか、殺すか悩んだ。元気でね」という言葉は、天性の殺し屋気質からの改善を表現したのかも。この言葉はチェ代表の「考えた。私たちのどちらが死のうとお前無しで生きるのは地獄か、今お前の娘にこれを見ているのは地獄か」と構成が似ている。復讐の選択を悪として描いているのである。

 

2、チェ代表VSキル・ボクスン 伏線が語る戦い方

 キル・ボクスンはチェ代表に対してどのように戦ったのだろうか? 序盤に「弱点を見つけること。ないならば作ればいい」とボクスンは話す。娘へのアドバイス「ちょっと愛想を良くすれば男子にもてる」は経験則でしょう。娘は母親似と評してましたしね。「殺しは悪い人がするするわけじゃないみたい」というセリフは生き残るための策略だったのだ。

 「右利きだっけ」とボクスンが訪ねた後で、チェ代表は左手でワインを飲むシーンがありました。ここでボクスンは右手にけがをしていることを気づいたのかもしれません。

 監督はインタビューで母親としてのボクスンは顔の右側がよく見えるように描き、殺し屋の時は顔の左側を主に見せていると語った。右手にけがは、チェ代表が父親としての能力に欠けていることの暗示だろうか。

 

3、なぜボクスンは殺し屋を辞めるのか?

「自然死を望むなら憎まれない人生を送るべきだった」というセリフは2度出てくる。娘は母親似で、母親は17歳で父親を殺した。娘に殺されないため溺愛していたのかもしれません。

 

4、妹が兄を愛する演出的理由

血縁関係にあるものが愛し合うというのはタブー視されていて、目立つようなキャラ付けすることは何か別の意味がありそうだ。タブー視された考え方は、娘が同性愛なところに重なり、きれいな対比関係があることが分かる。主人公とチェ代表には親族に性的マイノリティがいる。主人公とチェ代表の違いを際立たせるために他の条件をそろえる演出だろう。

 

5、ルービックキューブ

 ルービックキューブは昔のチェ代表とボクスンが初めて出会うシーンで出てき、「複雑な問題だが規則通りにすればすぐに解決する」と説明される。つまり、複雑な問題を表している。「問題を解決するには問題を無くすこと」と訓練生のキムを殺したとき、ルービックキューブは揃っていた。

 チェ代表がボクスンと戦う前に揃ったルービックキューブを崩すシーン。揃えるのが規則通りにすることなら、崩すのは規則を破ることを表しているだろう。

 

6、主人公の考え方の変化

 娘は、親子の間でできた壁を取り払い、天性の殺し屋気質からもなくなったと書いたが、何がきっかけなのだろうか? この映画を読み込んだ結果主人公の考え方が大きく変わっていたことを発見した。それは主人公と対照関係にあるチェ代表の考え方から分かる。MKは同業他社に規則を守れと厳しく言い自分が規則を破った時は「私が規則だ」と開き直る。終盤でボクスンと娘の食事シーンで「体に悪いものほどおいしい」と話すところは、規則を押し付けない気持ちを表したのだろう。

 

7、娘と訓練生の顔が似ている

 顔が似ていると紛らわしいですが演出上の理由が考えられます。訓練生は娘のありえたかもしれない未来を表しているかもしれません。娘が訓練生のようにキルボクスンにあこがれMKに入ると代表に殺された。